三浦しをんの『風が強く吹いている』がとても良かった
アニメ放送をきっかけに原作に手を出したのだけれど、思っていた以上に良作だった。
DIVE‼(森絵都)、チア男子(朝井リョウ)をあっさり抜いて、私の中の「青春×スポーツ部門」1位に躍り出た作品。
読み始めた瞬間から早く先が知りたい!もっと早く!!と、私にしては珍しく猛スピードで読み進め、残りページが少なくなるにつれて「まだ終わらないで!」という気持ちが強くなり、読み終わるとすぐにまた読み返したくなる。そんな作品に出会ったのは久しぶり。
読み終わって数日たつのにまだ興奮冷めやらぬ、と言った感じで一人そわそわしているので、お気に入りの一節、セリフなどを自分用にまとめておこうかと。
盛大にネタバレしているので、そういうのがダメな人は読まない方がいいと思います。
引用しまくりの記事ですのでご了承くださいませ。
その1
走、あまり遠すぎるところへ行くな。おまえが目指しているのはたしかにうつくしい場所だけれど、さびしくて静かだ。生きた人間には、ふさわしくないほどに。
三浦しをん ”風が強く吹いている”
ユキこと岩倉雪彦が箱根の山道を駆け下りているときの言葉。
1キロを2分40秒ペースで走っているユキは、このペースが普段走が走っている時のペースだということに気づきます。
走は走っているときに感じている世界を、この時ユキを通して読者も初めて具体的に知ることができたシーンは作中のどのシーンよりも私の中に残っています。
また、ユキは走が体感している世界を、
走、おまえはずいぶん、さびしい場所にいるんだね。
三浦しをん ”風が強く吹いている”
とも表現しています。ここがもう、涙腺崩壊ポイントです。
まぁその前からすでに涙腺はぶっ壊れているのですが、ここは何回読んでも視界がぼやけてダメです。
これを書いている今ですらウルウルしている始末です。
このセリフをユキに言わせるというのがまたなんとも……なんとも言えないのです。
その2
「持つのが面倒だから」
清瀬はなんでもないことのように答えた。清瀬の言葉には、いつだって迷いがない。
三浦しをん ”風が強く吹いている”
序盤にある、走がニラを散歩させているハイジに遭遇した時のシーン。
走が、なぜニラの首に糞を入れたレジ袋を括りつけているのかと聞いた時のハイジの答えが、まさしくハイジの性格を表しているようで私はかなりお気に入り。
アニメではカットされてしまったのだけど、このセリフをcv.豊永利行でぜひとも聞きたかったくらいだ。
ハイジの迷いのない答えを聞いてニラに同情してしまう走も可愛くてとても好きなシーンです。
その3
募集してるなら、応募者の存在に気づけよ、と走は思った。
三浦しをん ”風が強く吹いている”
予選会の前のミーティング(と言う名の酒盛り)で珍しく色恋話に発展したアオタケメンバーたちの会話が非常に大学生らしくて楽しい。
彼女募集中という言葉はよく耳にするけど、その返しとして応募者に気づけというのは私は聞いたことがなくて面白いなと思ったシーンです。
しかもこれを走ること以外に興味がない(と自分では思っている)走が言っているのが面白い。
なんだかんだ言ってもみんな年頃の男子なんだなぁと感じたシーンでした。
その4
「だから今度も言ってください。区間賞を狙うと」
神童の静かな迫力に押されるように、ユキは「狙う」と言った。
「はい、もう大丈夫です。ユキ先輩は絶対にいいタイムで走ります」
三浦しをん ”風が強く吹いている”
6区スタート前の神童とユキのやり取り。
この二人の組み合わせは地味に好きです。
プレッシャーに押しつぶされそうになっているユキのフォローの仕方がとてもスマートで神童らしくて、ユキのことを本当によく見ているんだなぁと目頭が熱くなったシーンです。
アニメでもカットされないでほしいなぁ。
その5
「つらいか、神童。つらかったら、両手をあげろ。すぐにでも俺は車を降りて、おまえをとめてやる」
三浦しをん ”風が強く吹いている”
体調不良の中5区を走る神童に向けて監督である大家さんが初めて(笑)監督らしい言葉をかけたシーン。
5区は最初から最後まで胸が詰まる思いで読んだのですが、ここが特に残っています。
十人しかいない寛政大学は神童が棄権したらそこで終わりなんですよね。
今までの頑張りを自分一人のせいで終わらせられない。そういう思いで走っている神童に対して、チームメイトたちは「やめてもいい」と言えない。言いたいけれど、言えない。
そんな中で、監督だからこそ投げかけることが出来た言葉なんだろうなと思います。
結局神童は監督の言葉に首を横に振り、脱水症状を引き起こしながらもゴールテープを切るわけですが、もうボロボロ泣いて正直ちゃんと文字を追うことが出来ませんでした。
その5
なんのために僕が、苦手な運動つきあってきたと思う。アホみたいに、走る練習ばっかりしたと思う。
箱根駅伝に出るためだ。
脳みそ筋肉なあんたたちの夢を、一度ぐらいは一緒に見てもいいかと思ったからだ……!
三浦しをん ”風が強く吹いている”
予選会での王子の心の叫び。
運動部は嫌い。運動は嫌い。そう言いつつもここまで一緒にやってきた王子の心の叫びは、アオタケメンバーへの思いが詰まっていて切なくなりました。
運動と無縁だった王子が言うからこ、この言葉は響くんでしょうね。
その6
「礼を言うにはまだ早いぞ」
「すぐに行きます。待っててください」
「転ぶなよ」
三浦しをん ”風が強く吹いている”
9区スタート前、珍しく弱気になった走がハイジに電話したシーン。
電話を切る直前のこの会話は本当に卑怯。
このやり取りで二人の結びつきの強さが改めて分かって涙が……。
ちょっとの距離をちょいちょいっと走っていくみたいな言い方だけど、走がいる場所からハイジのいる鶴見中継所までは20キロ以上あるんですよね。
それなのにこのセリフ。
走の「すぐに行きます」には、区間新を出すという決意表明も含まれている。その意気込みが静かに伝わってくるセリフ。良き……。
その7
細い道のうえで、あの男の走った軌跡だけが光っている。夜空をよぎる天の川のように、虫を誘う甘い花の香りのように、たなびいて清瀬の行くべき道を示す。
三浦しをん ”風が強く吹いている”
走るという動作をここまで美しい言葉で表現している文章を初めて目にした気がする。
どうやったらこんなに美しい表現が出来るんだろうかと、ひたすら感動したシーン。
ここはアニメでも美しく再現されていて文句なしでした。
本戦に入ってからは基本涙腺崩壊状態で涙が乾く暇がない状態でした。
でも序盤から結構胸が詰まって目頭が熱くなって涙ボロボロ状態だった気がします。
本戦ではアオタケメンバー一人ひとりの今までの葛藤などが掘り下げられていて、ここに来るまでに十人全員のことを好きなつもりで読んでいたけれど、さらにみんなのことが好きになって余計に涙が止まらなくなりました。
双子のたすきリレーのシーンはそんな涙腺崩壊状態の中でも異色というか、思わずクスッとしてしまうシーンだったのでアニメではぜひノーカットでお願いしたいです。
セリフ一つだってカットしてほしくない!
本当はもっともっと心に残ったシーンはたくさんあるんですけど、このままだと全文書き起こしそうな勢いなのでこの辺でやめにしておきます。
少し時間をおいて、年末にまた読もう。